第13回当事者研究の様子


 

 ピアリンク新年度初の当事者研究会でした。先月はピアリンク総会のためにお休みをしていたので2か月ぶりの研究会でとても緊張しましたが、たくさんの方々に来ていただいて大変嬉しかったです。

 

はじめにピアリンクのこれからの活動について報告をしました。中央労金の助成金プログラムに採用されたこと、「ゆるゆるの会」(当事者のみでゆるゆる当事者研究をしてみる会)を開催してみたいこと、各地に出張して一緒に当事者研究をやってみたいこと、役職が決まったことなどをスタッフ島田さん、こじまさん、佐藤さん、関口さんが報告しました。

 

午前の部 ジェンダー意識 男病現象学


 

「安心とは、生きづらさとは、生きやすさとは」をテーマに、向谷地さんと「男病」の研究をしました。

 

はじめに、当事者研究のオーダーメイド性について確認しました。以前べてるで、幻聴さんが聞こえて毎晩のように救急外来に行っていた方がいました。あるとき仲間から「ラーメンを食べるとよくなるよ」とアドバイスされたので、そのとおりに食べてみると幻聴さんが帰って行ったそうです。この方の場合はラーメンが幻聴さんに有効なのだと分かりました。これはn of 1の最高のエビデンスなのだということです。

 

それから、「生きづらさ」についてアンケートを取りました。「今の世の中は生きづらいと思う方」と聞くとほとんどの人が手を挙げていました。「つながりが少ない」「希望がない」などの声が上がりました。

 

時代や社会的背景の中で私たちは様々な枠組みに囚われています。例えば、「ひきこもりの8割は男性、摂食障害・自傷行為の8割は女性、うつ病と診断される人は女性が男性の倍、自殺率は男性が女性の3倍」 なのだそうです。この違いは生物学的性差だけでは説明が難しいです。「男性は社会の中で働いてなければいけない」「弱音を吐いてはいけない」「女性は綺麗であるべき」など、ジェンダー(社会的性差)の枠組みが影響を与えているようです。

 

べてるのある男性メンバーで、彼女ができて病気が出た人がいました。「薬を飲んでいてはいけない」からと薬を止めて、「働かなくてはいけない」から就職活動をした結果、順調に幻覚妄想状態になって入院したそうです。こういう病気のことをべてるでは「男病」と言うそうです。

 

 

このような囚われの中で「生きにくいままでどう生きるか」を研究してみることにしました。「男病現象学」と題して、まずは囚われを外在化して、男病の現象を検証することから始めました。

 

まず、「男病」の苦労を抱えている村岡さんの囚われを外在化していきました。「働いてなければいけない」「男としてお金を稼ぐのは当然、弱音を履いてはいけない」「社会とは戦場である、負けてはいけない」「感情は出してはいけない、泣くなんてもっての外」などです。

 

では、村岡さんの男病の囚われはどのように展開するのでしょうか? 「小学生の頃から、家族の関係の中で継承されていました」「社会との勝負には負けられない」「負けるとわかると勝負しない」「負けられないから勝負しない」、そこから「引きこもる」につながっていくそうです。そして社会との勝負は「個人戦」であるため、人を頼ってはいけない、弱みを見せることや相談はダメなのだということでした。

 

これらの囚われを「男ゲーム」と名付けて、このゲームのフィールドから出るにはどうすればいいのか考えました。「女性の真似をすればいい」「非男性化」「草食化」などのアイディアが出ました。参加者からは、私にも「女病」があるなどの意見が出て、今後も研究を続けていきたいテーマとなりました。

 

午後の部 べてるの家当事者研究留学報告


 

  今日のウォーミングアップは「今日の自己病名」です。以前やったときに好評でした。今日の気分体調や苦労している点を踏まえて自己病名を会場の皆さん各々が答えてくれました。皆さんの苦労などを共有できたとてもよいウォーミングアップになりました。

 

午後の部の前半は、こじまさんのべてる体験報告でした。

 

こじまさんは4月に2週間べてるの家を見学してきました。浦河ではたくさん写真を撮ってきたようで、潔さんや木林さんをはじめとしたべてるのメンバーが代わる代わるスライドに登場していました。ゆるゆるスローなべてるの家との異文化交流をぞんぶんに楽しんできた様子でした。

 

プログラムに参加して、「経験は宝」という理念が実践されている様子にこじまさんは驚いたようでした。誰かが幻聴や体感幻覚などの苦労を話すと、そこには似たような苦労を持った仲間がいます。そして自分の場合はどうだったのか、その体験を伝えていたそうです。苦労とつきあってきた経験がそのまま仲間を助ける言葉になっていて、場の力があるとはこういうことか、と感じました。

 

当事者研究やSSTについても報告がありました。問題が問題を呼びながらもそれで順調な様子や、軽快でユニークなロールプレイの紹介もあって、とても盛りだくさんな内容でした。

 

ライブ当事者研究-職場でのコミュニケーションの苦労-


 

午後の後半はOさんの宿題報告から始まりました。Oさんは前回の研究で、職場の社員さんに緊張しながらも上手に質問できるようにロールプレイをして練習しました。練習をした次の日に実践する機会があり、頭が真っ白になりながらも社員さんに質問することができたという報告が聞けました。練習の成果があってよかったですね。

 

今回は新たな苦労を紹介してくれました、仕事で困ったときにどのように対処したらいいのか社員さんにより具体的に質問することや、社員さんともっとコミュニケーションを取れるようになりたい、仕事を予測する新しい業務も覚えていきたい。ということでロールプレイをしました。

 

Oさんから職場の状況を聞きました。社員さんは職人気質なあまりしゃべらない人だそです。どんな話しかけ方がいいのか、社員さんとコミュニケーションを深め仕事を連携していけること、さらに社員さんの職人技を褒めて教えてほしいと伝えるのもいいコミュニケーションになる、他の人たちがどのようにコミュニケーションをしているか観察してみるなどのアイデアもあがり取り入れて練習しました。

 

とても緊張しながらも自分の苦労と近況を語ってくれたOさん、練習の成果があるといいですね、応援しています。