第10回当事者研究会の様子


第10回当事者研究会は、2012年2月12日に華蔵寺クリニック・デイケアファーブラで行いました。

おかげさまでピアリンクも10回目の開催を迎えることができました。

  

午前の部 -べてるの家のメンバーを迎えて‐


 午前の部は、急きょ前日にべてるの家の亀井さん(右)と高松さん(左)が参加してくれることになりました。

前日には鹿児島での講演があり、にもかかわらず遠い所からよく参加してくださいました。 

 

亀井さんと言えば『ホメホメ幻聴さん人格改造法』を開発したパイオニアです。亀井さんは仕事や人と会う時に「緊張さん」がやってきて、マイナスの幻聴さんや肩が凝ったり、目が痛くなったり、鼻が詰まったような感じになったりして圧迫されるそうです。

 

そこで自分を助ける方法として、仲間から褒めてもらったことや、楽しかったこと、良かった事、ユーモアなどを小さなノートに書き留める方法を教えてくれました。

 

すると凄いことにこのノートをとることによって幻聴さんやお客さんに褒めてもらえたり、前向きに考えられるようになったそうです。

今ではそのノートを夜、家で見るのが楽しみなんだそうです。 

 

 

 午前の部の後半、高松さんは風邪を引いていて辛そうではありましたが発表していただきました。

高松さんは幼少期の頃から爆発を中心に人とのつながりの苦労を持って生きてこられました。べてるに来る前は、自分の感情や気持ちを素直に表現できずに

『日本語失調症』状態だったとか。その時の使う日本語と言えば、

「うるせー、あっち行け!!」

「死ね!!」「殺すぞ!!」という少ない単語しか知らなかったそうです。

 

でも、べてるの家と出会い爆発の苦労をしながらも仲間と研究し、傷だらけになった心と身体に張り付いた''バッテンだらけの絆創膏''を1枚1枚丁寧に剥がしていったらそこには、寂しさに傷ついている自分で、そんな自分をわかってあげられなくて申し訳なくて涙があふれたそうです。

そうしているうちに自分に素直な言葉を表現できるようになり、爆発をしなくてもつながれるようになったそうです。

 

お二人とも自分の病気や苦労をとても大切にされていて、語ることの大切さを感じさせられました。

最後は高松さんのゴミ箱を太鼓がわりに使った即興ライブ''当事者研究の歌''まで披露してくれて、そこはまさにべてるワールド全開で、会場は大いに盛り上がりました。 

 

午後の部 ライブ当事者研究 -人に合わせて付き合うって疲れる-


今回の司会は村岡さん(写真左)とりかさん(写真右)です。

 始めはスタッフ小出さんの研究です。小出さんは准看護学校生で、現在休学をしています。なぜ「学校に行けなくなったのか」を研究をすることにしました。

 

小出さんの苦労のプロフィールは、「いつでもどこでもぺらぺら話ができないといけない」「趣味や楽しみのある面白い人でなければいけない」と自分に期待をする「期待お客さん」にジャックされること、人と比較をして落ち込む「劣等感」など現実とのギャップに苦しんでいます。

 

 

 小出さんが学校に行けなくなったのは、今年に入ってから。体の中から「学校に行けない」「動けない」というサインがでました。

 

まず今までの学校での苦労を整理してみました。准看護学校では空いている時間に働いているクラスメイトが多くいて、働いていない小出さんは「ニート」と呼ばれていたことがあったそうです。また「クラスメイトにどう見られているんだろう」と考えたり「人とあわせて付き合うことに疲れを感じていた」などです。

 

「人とあわせて付き合うことに疲れた」という苦労は多くの人が感じていました。「会社を休職していたけれど、部署が変わり病気で休職したことは話していない、でもふとした会話の中で震災の時の話がでて、自分は休職して家にいた事を話せなかった」「でも当事者のコミュニティーでは話すことができる」という方、「常に人を意識していて緊張感があり、心のバリアーがとれない」という方がいました。

 

受け身の人間関係は辛いですね。

 

准看護学校に通うという価値観について整理しました。「准看護師の資格を取ること」が第一なのですが、小出さんはクラスメイトとの付き合い方、「自分はおもしろい人でないといけない」「ニートと呼ばれたくない」など劣等感に翻弄されていたことがわかりました。 

 

今後の課題として「ありのままを受け入れらなない、比較してしまう自分のものさしって何だろう」と考えています。

 

以前劣等感の研究で「兄との関係」がテーマに上がり、子供の頃ファミコンをやりたかったけど兄にやらせてもらえなかったり、漫画を読ませてもらえなかったことが、趣味が持てない劣等感に繋がった、その兄との関係を深めてみることも改めて必要だと気付きました。

 

小出さんは得意なスポーツなどをやってみることで、自分を取り戻してみるなどの意見がでました。

 

今月中に休学をどうするかの返答をしなければいけない小出さん、今後どのように自分を助けていくか経過を聞いていきたいです。

 後半は高橋さんの研究です。高橋さんのテーマは「デイケアになかなか行けないこと」です。高橋さんは今月からデイケアに通い始めましたが、まだ4日程しか通えていません。なぜデイケアに行けなくなってしまうのかを研究しました。

 

高橋さんの自己病名は「カルテット症候群眠り猫型自閉症、日本語・つながり失調症」です。

 

高橋さんの苦労のプロフィールは、小学生の頃母親が作ってくれたカレーに毒が入っているのではないかと疑いを持つようになり、自分の思っていることが他人に分かられてしまっているのではという「サトラレ」の苦労も持っています。大学を卒業し就職をするが、うつになり眠り猫のように眠り、体調を取り戻し、またうつになるというパターンを繰り返してきます。

 

 

「デイケアになかなか行けない」高橋さんは、子供の頃から自分の殻に閉じこもりがちであったが、思春期になり周りと繋がらなくてはいけない、大勢は楽しいんだと思い無理をして繋がっていきます。例えとして湖と海に水路をつくり、淡水と海水が交わっていくようにと説明してくれました。

 

無理して大勢の人のなかで過ごしていることは苦しい高橋さんですが、本当に一人で居たいのかというと「みんなと繋がりたい」という気持ちがあります。だけど「みんなを傷つけたくない」「自分も傷つきたくない」という葛藤もあります。一人で居るメリットは「心が安らぐ」デメリットは「寂しさを感じる」ことです。結局は繋がることをあきらめてしまっていました。

 

高橋さんは最大級のパワーを使ってデイケアに行き、自分を出さず相手の様子に合わせ適応しようと頑張りすぎて疲れてしまうというサイクルです。「自分の普通より、相手の普通に合わせている」小出さんの研究と繋がる部分があると言われていました。

 

高橋さんの普通とは、基本的にあまり話さない、興味の幅が狭いことです。しかし高橋さんが「プランクトンの写真集を見ることが好きです」と話すと、「僕も好きだよミドリムシいいよね」と仲間から声が出ました。「高橋さんと話をしているととても落ち着くよ、聴き上手を活かすというのもいいね」など高橋さんのいいところがたくさん見つかりました。

 

最後にデイケアに行けるようにアイデアも仲間から聞きました。

 

・プランクトンの写真集を持ってくる

・一週間に一回行くなど小さな目標からはじめてみる

・話すから聴くをテーマにする

・デイケアの合間に散歩をして自分の時間をつくる

・今日の研究をデイケアのプログラムで話してみる

 

今回の研究を共有することで高橋さんがどのような苦労をもっているのかがみんなに伝わっていくといいですね。